
白川静『字統』によれば、「疑」の初文は「矣」である。矣は、人が後ろを向いて凝然として立ち止まり、杖を植てて進退を定めかねている形で、心の疑惑しているさまを示す。のちに、後ろ向きの人の形や足の形が加わった。

疑うとは、相手を責めることではない。進むか退くかを、すぐには決めない。その姿が、この字の原義である。
この字から、「疑似」や「疑獄」といった語も生まれた。似ているようで、なお疑いが残るもの。当否をすぐには定めがたいもの。いずれも、立ち止まることを含んでいる。
『字統』は、白川静が漢字の成り立ちを説いた字源の字書である。一字ごとに、古い字形から原義をたどる。

